2009年2月5日木曜日

この部屋を出る時

「きっと愛してあげれてなかったんだね。伝わってる、分かってくれてるって思いこんでただけだね。今更抱きしめられても嬉しくないよね。謝っても都合が良くしか聞こえないよね。」

「多分、貴方は本当は私たちがしてきたことを、そのままやり返したいでしょうね。骨の何本か折るくらいに、二度と立てないくらいに暴力を振るいたいよね。何年間も貯め込んだ痛みだものね。」

「でもそれを私達はきっと耐えられない。あなたはもう体も強くなってるから。私なんか簡単に死ぬと思うわ。それも分かってるんだよね。だから殴らないんだよね。だけど言葉の謝罪なんか欲しくないって思うんでしょう?そんなので納得できるほど軽く思えないんだよね。」

「痛かったよね、小さい頃からだもの。私や父さんが感情任せで貴方を立てなくなるくらい叩いても蹴っても抵抗できなかったよね。悔しいから忘れられないよね。そりゃ親もいらなくなるよね。」

「K(弟)もS(妹)も、私と貴方がこんな話し始めて聞こえる怒鳴り声がとても嫌なんだって。でもそんなの貴方にとってはどうでもいいよね。あの子達の浪人や留学で貴方が本当は望んでいた生活が用意できるお金を全部奪っていく可愛くない兄妹なんだからそんなの意識したくないよね。せめて怒鳴りたいよね。もう我慢せず言いたいことくらい言いたいよね、ごめんね。」

「今まで育ててくれたことなんて感謝したくないでしょう。感謝なんかしなくてもいいよ。貴方が言った通り私と父さんが勝手に貴方を生んだんだから。貴方からすればいい迷惑でしょうね。調教みたいに痛い思いばっかりさせて感謝しろなんて甚だしいよね」

「ごめんね、早くこの家を出たいって思う気持ち分かるよすごく。できるなら今すぐにでもでしょ?でも私達はもうそんな余裕ないから何にも援助できない。本当に腹立たせると思う。ごめんね。」

「就職して、お給料貰って、自分だけで暮らして、そこで貴方の生活は満たされるよ、きっと。」

「貴方は大丈夫。こんな環境の不満を億尾にも出さずちゃんと学校行って、ちゃんとした会社から内定も貰った。友達もいるし素敵な彼女も見つけた。私たちは必要じゃなく、あくまで経済的な補助だけ。全部自分のことは自分でしてきた。だからちゃんと生きていけるって思うよ。心配してないよ。」

「ごめんね。」


母とも父とも、もう何年前から上手くいってない。
表面上は何てことないように装ってても。
今でも覚えている。
去年の春に母は、大粒の涙をこぼした。
でも何にも感じなかった。
それくらい家族に対する感情は冷え切ってるんだって再認した。

今年の四月、無事卒業できたら
この家を出ることが決まった。
社宅のマンションの入居申請が通ったからだ。

あの春の日、母が言ったように
自分一人で生きてみて、そこで初めて満たされると思える。

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